
【PCE Huカード】 邪聖剣ネクロマンサー(ソフトのみ)【中古】PCエンジン
【発売】:ハドソン
【開発】:ハドソン
【発売日】:1988年1月22日
【ジャンル】:ロールプレイングゲーム
■ 概要
1988年1月22日、ハドソンが世に送り出した『邪聖剣ネクロマンサー』は、PCエンジンというハードにとって最初の本格RPGとして記憶されている。ファミリーコンピュータではすでに『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』といった名作が登場していた時代だったが、PCエンジンはそのグラフィック能力や音声表現で一歩抜きん出ていた。そんな舞台で登場したこの作品は、単なる模倣にとどまらず、ホラーと神話を融合させた独自の世界観で「恐怖を伴うRPG」という新しい地平を切り開いたと言える。
本作は、勇者として選ばれた主人公が仲間を伴い、王国を滅ぼさんとする魔空王アザトースを打ち倒すため、神々が遺したとされる剣「邪聖剣ネクロマンサー」を探し求めるという筋書きだ。一見すると典型的な「魔王討伐譚」に見えるが、その内実は異様に生々しい敵造形と緊迫感ある戦闘システムに満ちている。血が飛び散り、怪物が呻き、仲間が突然恐怖に駆られて戦闘から逃げ出す――そんな不安定さがプレイヤーを常に緊張させ続けるのだ。
歴史的位置づけ
当時のPCエンジンは、アーケード移植やアクションゲームには強いが、RPGという分野には足跡がなかった。家庭用ゲーム機においてRPGはすでに「主役ジャンル」となりつつあり、ハドソンが送り出したこの一本は「RPG空白地帯を埋める試み」でもあった。しかし彼らは単なる追随ではなく、真逆の方向へと舵を切った。王道ファンタジーではなく、クトゥルフ神話をモチーフとした怪奇的な世界。明るさよりも暗鬱さを前面に出したゲームデザイン。テレビCMで「夜、一人では遊ばないでください」と打ち出したこと自体が、当時のゲーム広告としては前代未聞の挑戦だった。これは明らかに“ファミリー層”よりも“好事家”や“ホラーファン”を狙ったものであり、その姿勢が作品の独自性をさらに際立たせた。
PCエンジンは高発色数を誇るハードだったが、『邪聖剣ネクロマンサー』はそれを「鮮やかで楽しい世界」のためではなく、「血や臓物を想起させる嫌悪の色彩」に使った。この逆転の発想こそ、後に“カルト的人気”を呼ぶ理由のひとつとなる。結果として本作は、PCエンジンのライブラリにおいて単なる一タイトルにとどまらず、「このハードにRPGの可能性を刻んだ先駆け」として重要な意味を持つことになった。
世界観と言語
『邪聖剣ネクロマンサー』を特徴づける最大の要素は、その不気味な世界観だ。敵モンスターの名称には「ナイアラトテップ」「ツァトゥグァ」「ハストゥール」など、クトゥルフ神話に由来する名前が散りばめられている。日本の家庭用RPGでこれほど露骨に神話的な固有名を採用した例は当時ほとんどなく、プレイヤーは冒険の最中に見慣れぬ単語に触れるたび、“異界に迷い込んだ”感覚を覚えたに違いない。
また、町やアイテムの名前も一筋縄ではいかない。「クライトー」や「ティールペルツ」といった言葉は、一読しただけでは意味が取れず、むしろ言語の壁そのものがプレイヤーの不安を煽る仕掛けになっている。日本語の言葉遊びを逆さにしたような魔法名もあり、理解しづらさがそのまま“異質感”に転化されていた。一般的なRPGでは、名称のわかりやすさや親しみやすさが重視される傾向にあるが、本作はあえて理解を妨げることで「何か得体の知れないものと接している」という感覚を強めているのである。
こうした“言葉の呪縛”とでも呼ぶべき演出は、単に雰囲気作りにとどまらず、ゲームプレイそのものを独特の緊張で包んだ。初めて手に入れた装備品の名前が何を意味するのか分からない。新しい呪文を覚えても効果を推測するしかない。この「わからない」状態こそが、クトゥルフ的ホラーの本質であり、プレイヤーに“恐怖と好奇心の両方”を植え付けた。
『邪聖剣ネクロマンサー』のインパクトを語る上で、視覚と聴覚への挑戦は外せない。PCエンジンは当時「同時発色数が多い」というハード特性を売りにしていたが、本作はその強みを“明るさ”ではなく“暗さ”の強調に振り切った。戦闘画面では、敵モンスターが登場するたびにグロテスクな姿が画面いっぱいに描かれる。血管の浮き出た肉塊や骸骨を模したクリーチャーが動き、攻撃を受ければ鮮血のような赤が飛び散る。子どもが目にしたら悪夢に出そうな表現を、家庭用RPGが真正面から採用したこと自体が、当時としては革命的だった。
一方で、その不気味さを際立たせているのがサウンドだ。作曲を担当した竹間淳は、『ボンバーマン』シリーズなどで軽快な旋律を生み出していた人物だが、本作では一転して重苦しい旋律を紡ぎ出した。フィールドの曲は淡々とした低音が流れ続け、プレイヤーに常に不安を残す。ダンジョンでは金属的で耳に刺さるような音色が響き、戦闘ではリズムが早まり緊張感を煽る。旋律自体はシンプルでありながら、音の“間”や持続音を活かして恐怖を増幅させる手法は、映画音楽的ともいえる巧みさだ。
当時の家庭用RPGは、明るい冒険や勇ましい戦いを描くものが多く、音楽も希望や昂揚を重視していた。そんな中で本作のBGMは「不安」「停滞」「不気味さ」を軸に組まれており、プレイヤーはゲームを進めながらも常に胸の奥をざわつかせられる。ビジュアルとサウンドが相互に作用し、PCエンジンのスペックを「恐怖の演出装置」として使い切った点は、他のタイトルでは代替できない個性となっている。
体験デザイン=難しさの作法
『邪聖剣ネクロマンサー』は「難しいゲーム」としても有名だが、その難しさは単なる理不尽ではなく、独自の“設計意図”に基づいていた。たとえば戦闘バランス。一般的なRPGではレベルを上げれば敵に勝てるようになるが、本作ではマップを進むごとに敵が強化されていくため、常に「成長と脅威」が拮抗する状態が続く。油断していると雑魚戦ですら一撃で倒されることがあり、常に緊張を強いられる。
さらにユニークなのが「素早さ」の重視だ。行動順や命中率、回避率、連続攻撃の発生確率など、戦闘のほぼすべてが素早さに依存している。素早いキャラクターは一度のターンで2回、場合によっては3回攻撃できる一方、遅いキャラクターは攻撃を外すことが多く、集中砲火を浴びてしまう。この極端な数値設計が、仲間選びに大きな意味を与えた。序盤から終盤まで頼りになるキャラもいれば、能力の偏りから“地雷”扱いされるキャラも生まれ、プレイヤーは試行錯誤を繰り返すことになる。
また、ダンジョン探索の仕掛けも徹底して不親切だ。洞窟の中は視界が狭く、アイテムを使ってもほんの一部しか見えない。壁にはノーヒントの抜け道が仕込まれており、重要なアイテムが隠された場所に辿り着くには“偶然の発見”や“執念深い探索”が求められる。序盤の洞窟ですら隠し通路が存在するのだから、プレイヤーは「このゲームは信用できない」という警戒心を常に持ちながら進めざるを得ない。
極めつけはセーブシステムだ。宿屋で表示される64文字に及ぶ長大なパスワードを手書きで控えなければならず、1文字でも間違えれば復元に失敗する。入力ミスによってレベルが異常に跳ね上がったり、逆に低下したりする“バグめいた挙動”が起こることもあり、この不安定ささえも“恐怖体験”の一部になっていた。現代の目から見れば不便そのものだが、当時のプレイヤーは紙と鉛筆を片手に、まるで呪文を写し取るかのようにゲームを続けていたのである。
こうした“意地悪”とも言える設計は、プレイヤーを選ぶ一方で、挑戦を乗り越えたときの達成感を強烈に増幅させた。「不親切」「難しい」と文句を言いながらも、再びパスワードを入力して冒険に戻ってしまう――その繰り返しこそが、『邪聖剣ネクロマンサー』の本質的な魅力だった。
『邪聖剣ネクロマンサー』を語る上で忘れてはならないのが、主人公と共に旅をする仲間たちの存在だ。プレイヤーは最大3人パーティを組むが、主人公以外は5人の候補から2人を選ぶ仕組みになっている。つまり、誰を選ぶかで冒険の難易度や体験が大きく変化するのだ。
例えば、攻撃魔法に優れたライムは序盤から終盤まで安定して活躍できる優秀なキャラクターで、多くのプレイヤーに選ばれた。一方でバロンは純粋な力は強いが素早さが致命的に低く、攻撃を外しまくったり、敵から連続攻撃を浴びたりする危険が常につきまとう。マイストは圧倒的な素早さで雑魚戦の処理に役立つが、終盤にかけて火力不足が目立ち、サポートを要する。ロミナは最初は力不足で苦労するが、後半にかけて成長速度が急激に上がり、大器晩成型として真価を発揮する。
このように、キャラクター性能には明確な“偏り”が設けられており、どの組み合わせを選んでも一長一短がある。つまりプレイヤーは「安定を取るか、ロマンを取るか」を常に突きつけられることになる。開発陣が意図的にこの格差を設計したことは、バランスよりも“選択のドラマ性”を重視した表れだろう。
また、ゲーム内には「隠しパラメータ」として“恐怖値”とも呼ばれるシステムが存在し、仲間がダメージを受けたり戦闘で逃げたりすると増加してしまう。この値が高まると、仲間が勝手に戦闘から逃亡することもある。システムとしては不安定で理不尽に見えるが、裏を返せば「キャラクターが意思を持っている」ような錯覚を与え、パーティが単なる数値の集合ではなく、一人ひとりが“生きている仲間”だと感じさせる仕掛けになっていた。
パーティ編成の自由度は現代RPGでは当たり前だが、1988年当時の家庭用ゲームで「キャラクターの個性と成長曲線をここまで差別化した」事例は珍しかった。プレイヤーは仲間を選び、時に裏切られ、時に信頼を深める。この揺れ動く体験が、物語以上に強烈な印象を残したと言えるだろう。
作品価値の総括
こうして振り返ると、『邪聖剣ネクロマンサー』は単なるRPGの枠を超え、プレイヤーに“恐怖と挑戦”を突きつけ続ける実験的な作品だったと分かる。血飛沫や臓物を模したグラフィック、心をざわつかせるBGM、不親切を極めたシステム、そして極端なキャラクター性能。どれを取っても当時の王道RPGから大きく外れ、むしろ“プレイヤーを突き放す”方向に進んでいた。
だが、その突き放しがプレイヤーにとっては逆に魅力になった。簡単に進めないからこそ、洞窟の奥で宝箱を見つけた瞬間や、仲間が成長して戦力になった瞬間の喜びは何倍にも膨れ上がる。難度の高さゆえに挫折する人も多かったが、最後までやり切った者にとっては忘れがたい体験として心に残った。
エンディングの後味の悪さも含め、本作は「すっきりとした勝利」よりも「不気味さと余韻」を重視しており、その姿勢はまさにホラーRPGの先駆けと呼ぶにふさわしい。発売から30年以上が経った今も、ファンの間で語り草となり、リバイバルや移植で新しい世代にも触れられていることは、その存在感の証明だろう。
総じて『邪聖剣ネクロマンサー』は、PCエンジン初のRPGであると同時に、「家庭用ゲーム機でもホラー体験は成立する」ことを示した野心作だった。万人に薦められる作品ではないが、強烈な個性と恐怖演出によって、今なおレトロゲーム史に刻まれる異端の名作として光り続けている。
■■■■ ゲームの魅力とは?
1. 世界観の徹底したホラー演出
『邪聖剣ネクロマンサー』の最大の魅力は、徹頭徹尾「恐怖」に浸らせる演出姿勢にある。勇ましい冒険譚ではなく、暗く不気味な旅路。街の人々はどこか影を落とし、道中の洞窟は明かりを灯しても先が見えず、魔物は血と肉を模した姿で迫ってくる。プレイヤーはゲームを進めるごとに「この世界は味方をしてくれない」という感覚を強め、ただ前進すること自体が緊張と挑戦になるのだ。
加えて、敵キャラクターの多くはクトゥルフ神話を意識した造形であり、単純な「怪物」ではなく「人間には理解できない存在」として描かれている。その不条理さが、単なる難しさ以上に“恐怖体験”を際立たせた。こうした世界観の徹底ぶりは、当時のRPGとしては極めて珍しく、ホラージャンル好きなプレイヤーを強く惹きつけた。
2. 戦闘の緊張感と達成感
本作のバトルは、従来型RPGの単調な「コマンド選択ゲーム」とは一線を画す。素早さが行動順・命中率・連続攻撃の発動に直結し、一度の判断が勝敗を分ける。ときに仲間が勝手に恐怖で逃げ出す仕様もあり、戦闘は常に予測不能。理不尽さすら孕むが、その分一戦ごとの重みが非常に大きい。
だからこそ、勝利した瞬間の達成感はひときわ強烈だ。とくに強敵を乗り越えたときや、死闘の末に残りHP一桁で勝ち残ったときの喜びは、他のRPGでは味わえない。難度の高さゆえに一歩進むごとに緊張を強いられるが、その緊張がプレイヤーを“物語世界の住人”に近づけているとも言える。
3. キャラクター成長のドラマ性
仲間キャラクターたちは性能が極端に尖っており、それがプレイヤーの体験を多様にしている。序盤から安定して役立つ者もいれば、後半で化ける“大器晩成型”もいる。序盤は役立たずに見えた仲間が、終盤ではパーティの要になる――この劇的な変化がプレイヤーの愛着を育み、ストーリー以上のドラマを生んだ。
さらに、仲間が恐怖に駆られて逃げ出す仕様は、一見マイナス要素だが「キャラクターが意思を持つ存在」として感じられる要素でもある。単なる駒ではなく、“一緒に旅をしている仲間”として印象付ける仕掛けになっているのだ。
4. 不親切さが生む探索の醍醐味
本作は徹底してヒントが少ない。隠し通路は目視できず、重要アイテムもノーヒントで配置される。しかしこの“不親切さ”こそがプレイヤーの好奇心を刺激する。偶然見つけた通路や、何度も失敗してやっと辿り着いた宝箱は、他のゲームでは味わえない喜びを与えてくれる。
現代の基準では理不尽とされる仕掛けも、当時のプレイヤーにとっては「未知の世界を自分の力で切り開いた」という体験につながり、深い満足感を生んだ。攻略情報が限られていた時代において、友人同士で「ここに通路があるらしい」と情報を交換するコミュニケーションの種になった点も、本作ならではの魅力だ。
5. ビジュアルと音楽の相乗効果
ビジュアルとサウンドが融合して恐怖を強調している点も特筆すべき魅力だ。グロテスクなドット絵と緊張感あふれるBGMが同時に作用することで、プレイヤーは“画面の向こうに息づく異界”を感じ取る。特に戦闘BGMは、シンプルながら心拍数を速めるリズムを持ち、長時間のプレイでも緊張を持続させる。
この「目と耳から同時に迫ってくる恐怖体験」は、PCエンジンの性能をフルに活かした演出であり、他のハードでは再現しきれない部分でもあった。
6. カルト的人気を支えた“異端性”
総合的に見ると、『邪聖剣ネクロマンサー』は“遊びやすさ”や“万人受け”を捨てた設計によって、逆に強い存在感を手にしたタイトルだった。難しく、不親切で、恐ろしく、しかし挑むほどにクセになる。この矛盾を抱えた体験こそが、30年以上経った今でもファンの間で語り継がれる理由であり、カルト的人気を支える最大の魅力だろう。
■■■■ ゲームの攻略など
序盤 ― 生き延びるための基礎作り
ゲーム開始直後、プレイヤーはランダメリア王宮を出発し、わずかな装備と資金だけを手に旅に出ることになる。この時点で最も重要なのは「いかに早く仲間を選び、適切にパーティを構成するか」だ。ライムを仲間に加えることで攻撃魔法と回復の両面をカバーでき、序盤の不安定さを緩和できる。一方でバロンやカオスを選んでしまうと、素早さ不足が露呈し、雑魚戦でも苦戦を強いられる可能性が高い。
序盤の洞窟は視界が極端に狭く、無駄に歩くほど敵と遭遇する確率が増す。したがって、探索時は「一歩進むごとに戻るか否かを判断する慎重さ」が攻略のカギとなる。アイテム所持数にも制限があるため、薬草を適度に持ち込みつつ、不要な装備は売却して資金を確保するのが鉄則だ。序盤のうちに「トルース」など強力な武器を拾えれば冒険が一気に楽になるが、これは隠し通路を発見できるかどうかに左右されるため、プレイヤーの運と観察眼が試される。
中盤 ― 成長とリスクのバランス
中盤に差し掛かると、敵の攻撃力と耐久力が跳ね上がり、ただレベルを上げるだけでは対処できない局面が増えてくる。この段階で重要なのは「素早さ」の確保と、「魔法の活用」だ。特に「イーガス」のように敵の素早さを下げる魔法は必須であり、これを習得しているかどうかでボス戦の難易度が大きく変わる。
また、恐怖値(忠誠心)が問題になるのも中盤以降だ。仲間が勝手に逃げ出すリスクを抑えるためには、宿屋や回復魔法でこまめにケアする必要がある。ここでプレイヤーは「ただ戦うだけでなく、仲間の精神状態も管理する」という独特のプレイ体験を味わうことになる。
装備や魔法の価格が高く、金策がシビアなのもこの時期の特徴だ。強敵の出現率が高いため、無理に突き進むのではなく「街を拠点に少しずつ探索範囲を広げる」戦略が推奨される。道具の所持制限が厳しいため、戦闘で使わないアイテムは惜しまず処分し、必要なものを優先的に持ち歩くことが肝心だ。
終盤 ― 真のネクロマンサーを手にするまで
終盤の冒険は、理不尽なまでに強力な敵との連戦に次ぐ連戦だ。ここで最大の目標となるのが「邪聖剣ネクロマンサー」の入手である。この武器を手に入れない限り、ラスボス・魔空王アザトースにはほとんど歯が立たない。入手後も鍛錬を重ねることで剣が真の力を発揮し、初めてラスボスへの道が開ける。
ただし、入手への道筋は決して分かりやすくない。ノーヒントで隠された通路や、存在自体が説明書にも載っていないアイテム「レジェルダー」のような要素が待ち構えており、事前知識なしでは探索に膨大な時間を要する。これが当時プレイヤーを悩ませ、同時に「自力で見つけたときの感動」を倍増させる要素でもあった。
ラスボス戦は、RPG史に残るほどの“持久戦”だ。アザトースは極端に高い防御力を持ち、魔法攻撃が一切通じないため、物理攻撃で削り続けるしかない。素早さを下げる魔法を駆使し、回復を怠らず、全員の攻撃を地道に積み重ねていく粘り強さが求められる。この戦いを乗り越えたとき、プレイヤーは達成感と同時に、エンディングの衝撃に直面することになる。
裏技・小ネタ
当時のプレイヤーの間では、いくつかの裏技や小ネタも共有されていた。代表的なのが「トルースバグ」と呼ばれる仕様で、特定の座標の不具合により強力な武器が序盤から拾えてしまう現象だ。これを利用すると序盤の難度が劇的に下がるため、裏技として重宝された。また、重要なアイテムを誤って捨てても「さがす」コマンドで拾い直せる仕様は、意図的か偶然か分からないがプレイヤーに救済を与えた。
こうした“抜け道”を探す楽しみは、攻略本や雑誌記事を介して広まり、当時のゲーマー同士の情報交換を活性化させた。攻略の難度が高いからこそ、裏技や小ネタを見つけたときの喜びは大きく、それもまた本作の魅力の一端となっていた。
■■■■ 感想や評判
発売当時の反応
1988年当時、『邪聖剣ネクロマンサー』はPCエンジン初のRPGということで注目を浴びた。しかし同時に、そのあまりに暗くグロテスクな表現は「子供向けゲーム」というイメージを持たれていた家庭用ゲーム市場に衝撃を与えた。テレビCMで流れた「夜、一人では遊ばないでください」というキャッチコピーは強烈で、怖いもの見たさで手に取ったプレイヤーも多かった。一方で、序盤から理不尽なほど敵が強く、長大なパスワードに苦しめられたユーザーも少なくなく、「難しいけれどクセになる」という声と「途中で投げた」という声がはっきり分かれたのも特徴だ。
雑誌のレビューでも評価は二分された。『ファミコン通信』(現ファミ通)ではグラフィックや世界観の斬新さを評価する一方で、バランスの厳しさや不親切な仕様が批判対象となった。総合点としては平均的だったが、「挑戦的なRPG」として記憶に残ったことは確かだ。
プレイヤーの感想 ― 「怖いけどやめられない」
当時のプレイヤーの多くが語ったのは、「怖いのに続けてしまう」という感覚だ。モンスターの造形は家庭用ゲーム機では珍しいほど生々しく、倒したときに飛び散る赤いエフェクトもショックを与えた。しかしその恐怖こそが“続ける動機”となり、夜遅くまで遊んでしまった人も少なくなかった。
また、仲間が突然戦闘から逃げ出す「恐怖値」の仕様は「理不尽」と言われる一方で、「人間味があって面白い」という肯定的な意見も存在した。全員が完璧に働くのではなく、恐怖に負けることもある仲間たちと冒険を続けることが、逆に“リアルな旅”を感じさせたという声もある。
メディアによる再評価
1990年代に入ると、RPGの主流は『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』に代表される親しみやすい物語性や演出重視の方向に進んだ。その中で『邪聖剣ネクロマンサー』は「尖りすぎていた異端作」として一度は埋もれかけた。しかし2000年代以降、ホラー表現やダークファンタジーが再評価される流れの中で「時代を先取りしていた作品」として再び脚光を浴びることになる。
特に、2008年に携帯アプリ版が配信されたことや、2019年の「PCエンジン mini」に収録されたことで、新世代のゲーマーが触れる機会が増えた。現代のプレイヤーは便利なセーブ機能を活用できるため、当時は挫折した人でも最後までクリアできるようになり、その結果「実は完成度が高い」という評価も広がった。
ファンコミュニティの声
インターネット上の掲示板やSNSでは、本作にまつわる“思い出話”が今も語られている。「子供の頃に怖すぎて泣き出した」「ラスボスが強すぎて友達と一緒に挑んだ」といった体験談から、「あのエンディングの後味が忘れられない」という声まで、多彩な思い出が共有されている。こうした記憶がファン同士の共通体験となり、作品を“カルト的な名作”として支え続けているのだ。
総合評価
総じて、『邪聖剣ネクロマンサー』の評判は「万人受けはしないが、強烈な個性で忘れられない作品」という一点に集約される。賛否は分かれつつも、独特のホラー演出や高難度バランスが、他のRPGでは代替できない体験を与えたことは疑いない。だからこそ30年以上経った今でも話題に上り、再評価の対象となっているのである。
■■■■ 良かったところ
1. 独自のホラーRPG体験
最も評価された点は、家庭用ゲーム機でありながら「本当に怖い体験」を提供したことだ。
当時のRPGは勇ましい冒険や希望を描くものが多かったが、『邪聖剣ネクロマンサー』は真逆の方向に進み、暗く不気味で血の匂いが漂う世界を作り上げた。敵のグラフィックはどれも異様で、画面に現れるたびプレイヤーを緊張させる。こうした「怖さそのものを楽しむ」感覚は新鮮であり、プレイヤーの記憶に深く刻まれた。
2. 圧倒的なビジュアルと音楽表現
PCエンジンの性能を最大限に活かし、ドット絵で表現されたモンスターはファミコン世代のRPGとは一線を画していた。血管が浮き出た肉塊や骸骨兵士など、グロテスクでありながらも緻密に描かれた姿は、当時の子どもたちにとって衝撃的だった。
さらに、竹間淳によるBGMは、戦闘の緊張感やダンジョンの不気味さを増幅させ、雰囲気作りに大きく貢献した。「音が怖いからヘッドホンでは遊べなかった」という声も残っているほどだ。映像と音楽が相互に恐怖を支え合った点は、評価の高い部分だった。
3. 達成感の大きさ
難易度が高く、序盤から全滅の危険がつきまとうが、その分「進めたときの喜び」は格別だった。
特に、隠し通路を偶然発見したり、強力な武器を見つけたりした瞬間の高揚感は、他のRPGにはないものだった。プレイヤーは苦労を乗り越えることで「自分の力で切り開いた」という感覚を得られ、この達成感こそが長く遊ばれる理由になった。
4. キャラクターの個性
仲間キャラの成長曲線が大きく異なる点も「良かった」とされる。序盤は役立たずに思えたキャラが後半で急成長し、逆に序盤は頼りになったキャラが終盤に失速する。この極端なバランスは一見不便だが、プレイヤーに強烈な印象を残した。「最初は弱かったロミナが、最後には大魔法でパーティを支えるようになった」という体験は、プレイヤーごとの冒険をドラマチックにした。
5. エンディングの衝撃
本作はラストの展開にも強烈なインパクトがあった。詳細はネタバレになるが、後味の悪さや不気味さが語り草となり、プレイヤーの記憶に強く残った。通常のRPGでは「魔王を倒して平和が戻る」という結末が王道だったが、本作はむしろ「勝ってもすっきりしない」エンディングを採用。これが他の作品との差別化につながり、名作として語られる理由のひとつとなっている。
6. カルト的な魅力
総じて、本作は「不親切さ」「恐怖」「高難度」という要素をポジティブに転化した稀有な例と言える。万人には薦めにくいが、刺さる人には一生忘れられないほど強烈な体験を与えた。その結果、発売から数十年経ってもファンが語り続ける“カルト的名作”の地位を確立した。
■■■■ 悪かったところ
1. 難易度の極端さ
多くのプレイヤーが最初に感じた不満は「理不尽なまでの難しさ」だった。
雑魚敵ですら一撃で致命傷を与えてくることがあり、橋を一本渡っただけで敵の強さが急激に跳ね上がる。これは「成長に見合った挑戦」を期待していたユーザーには大きなストレスだった。さらに、恐怖値システムで仲間が勝手に戦闘から逃げ出す仕様も、攻略を難しくする要因となり、「せっかくの戦略が台無しになる」という声も少なくなかった。
2. パスワード方式の不便さ
セーブ方法が64文字にも及ぶパスワード入力だった点は、当時のプレイヤーにとって大きな負担だった。手書きで記録するには長すぎ、1文字間違えただけで全てが水の泡になる。しかも入力時のミスでレベルやアイテムが異常な状態になることもあり、「やり直す気力を削がれる」という批判が多かった。後に出たRPGではバックアップ機能が主流になっていったことを考えると、この仕様は大きなマイナス要素だった。
3. 不親切すぎる探索設計
隠し通路やアイテムの配置がノーヒントである点は“醍醐味”である一方、行き詰まりの原因にもなった。とくに最後の大陸に渡るための必須ルートが隠し通路に仕込まれていたため、ヒントを知らないプレイヤーは永遠に進めず挫折してしまうことも多かった。攻略本や友人からの情報がなければ突破できない場面が多く、「ゲームがプレイヤーを突き放しすぎている」と感じる人も少なくなかった。
4. 装備と魔法の価格バランス
ゲーム内の装備や魔法は性能に対して価格が非常に高く設定されており、十分に揃えるまでに大量の雑魚戦を繰り返す必要があった。「延々と金策に時間を取られる」という不満は大きく、結果としてゲームテンポを損なっていた。せっかく強力な武器を手に入れても、すぐに敵がインフレして戦闘バランスが崩れる点も「徒労感が強い」と評された。
5. キャラクター性能の格差
仲間キャラの性能差が大きすぎるのも、プレイヤーの不満につながった。ライムやマイストは安定して役立つ一方、バロンやカオスは素早さが低いため扱いにくく、結果的に「仲間選びの自由度」が実質的に制限されてしまった。好きなキャラを選んだつもりが後半で足を引っ張ることになり、「騙された」と感じたプレイヤーも多かった。
6. エンカウント率の高さ
探索中のエンカウント率が極端に高く、「数歩進むごとに戦闘に突入する」という状況はプレイヤーの忍耐を試した。特に終盤の「天空城」では、一歩動いただけで再び戦闘になることが当たり前で、「進めない」「探索が進行しない」とストレスを感じる人が多かった。
7. エンディングの後味
エンディングの展開は“衝撃”として評価される一方で、「救いがなく不快だった」と感じるプレイヤーも一定数存在した。長い時間を費やしてラスボスを倒したのに、最後に待っていたのは達成感よりも虚しさであり、この点については好みが大きく分かれた。
総じて『邪聖剣ネクロマンサー』の「悪かったところ」は、現代的に言えば“ユーザーフレンドリーでない”要素に集約される。しかし、そうした不便さや理不尽さこそが逆に作品の強烈な個性を形作っていたのも事実だ。プレイヤーを選ぶ一方で、乗り越えた人には忘れられない体験を残した――この二面性こそが、本作がカルト的な名作として語り継がれる理由だろう。
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■ 好きなキャラクター
主人公 ― 王国を背負う無名の勇者
物語の中心にいる主人公は、名前を自由に設定できるため、プレイヤー自身を投影する存在だった。バランスの良い能力と万能型の立ち位置は、極端な性能を持つ仲間たちの“中和役”でもある。特に、ラスボス戦では「邪聖剣ネクロマンサー」を振るう唯一無二の存在となり、王国の希望を象徴するキャラクターだ。名前を付けて共に旅をする体験は、プレイヤーにとって忘れられないものとなった。
ライム ― 頼れる万能魔法使い
最も多くのプレイヤーに支持されたのがライムだ。攻撃魔法と回復魔法を兼ね備え、素早さもそこそこ高い。序盤から終盤まで安定してパーティを支えられるため、「困ったときはライムがいれば安心」という声が多い。外見や台詞回しに派手さはないが、実力で信頼を勝ち取ったキャラクターといえる。今でもファンの間では「絶対外せない仲間」として人気が高い。
マイスト ― “はやて”の異名を持つ俊足の剣士
マイストは圧倒的な素早さでプレイヤーを魅了した。雑魚戦では一人で敵を次々となぎ倒す爽快感があり、序盤から中盤にかけての心強さは群を抜いている。「はやてのマイスト」という異名が示す通り、連続攻撃の発生率が高く、戦闘のテンポを大きく変えてくれる存在だった。ただし後半では火力不足になる点もあり、それを分かっていても“スピードの気持ちよさ”から選び続けたプレイヤーが多かった。
ロミナ ― 大器晩成の魔法戦士
序盤は頼りなく「役立たず」と言われがちだったロミナ。しかしレベル15を超えたあたりから急激に成長し、強力な魔法を次々と習得するようになる。その劇的な変化はプレイヤーに強い感動を与え、「あの弱かったロミナが、今やパーティの要に」というドラマを体験できた。努力と忍耐が報われる存在として、特に長くプレイしたファンに愛されたキャラクターだ。
バロン ― 不器用な力自慢
バロンは典型的な“扱いの難しい仲間”だった。力は強いが素早さが極端に低く、攻撃が外れることも多い。敵からの集中攻撃を浴びて倒れやすいことから「地雷キャラ」と呼ばれることもあった。しかし、その一方で「レジェルダー」を装備させれば一転して最強クラスの攻撃力を発揮できる。ロマンを追い求めるプレイヤーにとっては、苦労と引き換えに得られる“豪腕キャラ”として忘れられない存在だった。
カオス ― 玄人好みの補助役
カオスは防御魔法と回復魔法を多く扱えるが、素早さの低さが致命的で敬遠されがちだった。しかし、補助を駆使して戦略的に戦うプレイヤーにとっては唯一無二の存在であり、特に「イーガス」を習得させたときの価値は計り知れない。地味ながら「裏方に徹して勝利を支える」キャラクターとして、一部のファンから熱烈に支持されている。
NPCたち ― 脇を固める印象的な存在
仲間以外のキャラクターも、強烈な印象を残している。故ジェイノス王は冒頭で登場し、プレイヤーの冒険に使命感を与える象徴となった。老人ギムルは旅立ちを導く存在であり、“師匠”や“後ろ盾”の役割を果たす。さらに、水の女神ミオネリアやエルネリアといった存在は、荒涼とした世界の中で数少ない安らぎを与えるキャラクターだった。
特にミオネリアが湖畔で祈りを捧げる場面は、プレイヤーに「この世界にもまだ救いがある」と思わせる象徴的なシーンとして語り継がれている。
総じて、『邪聖剣ネクロマンサー』のキャラクターたちは性能面の凸凹が大きく、一見アンバランスに思える。しかしそのアンバランスさこそがプレイヤーの心を動かし、「好きなキャラ」「忘れられないキャラ」を生み出す要因となった。誰を選んだか、どう育てたかがそのまま“自分だけの冒険”として語り草になる――それが本作ならではの魅力だった。
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■ 中古市場での現状
ヤフオク!での取引状況
ヤフオク!では、PCエンジン用ソフト『邪聖剣ネクロマンサー』は現在でも一定数の出品が見られる。価格帯は 1,500円〜3,000円前後が主流で、状態によって大きく変動する傾向がある。
ケースにスレや日焼けがある品、説明書欠品などは1,500円程度から出品されることが多い。
一方で、ケース・Huカード・説明書がすべて揃い、外観の状態が良いものは2,500〜3,000円で安定して落札されやすい。
また、未開封品や美品は稀に4,000円を超える値段が付く場合もあり、コレクター需要を反映している。入札数は少なめだが、終了間際に競り合うケースも見られる。
メルカリでの販売状況
フリマアプリ「メルカリ」でも、比較的安定して取引されている。取引価格は 1,800円〜2,800円前後が多く、
「動作確認済み」「箱・説明書付き」といったコンディションの良いものはすぐに売れてしまう傾向がある。
逆にHuカードのみの出品や、状態に難ありの品は1,500円前後まで値下がりすることもある。
メルカリでは「送料無料」「即購入可」と記載されたものが人気で、販売スピードが速い。レトロゲームを探すユーザー層にとっては手軽な取引場所となっている。
Amazonマーケットプレイス
Amazonでは出品価格がやや高めに設定される傾向がある。中古ソフトの相場は 2,800円〜4,000円前後で、特に「Amazon倉庫発送」「プライム対応」となる商品は3,000円台で安定している。
Amazonはコレクターよりも「遊びたい人」より「確実に手に入れたい人」に利用されやすいため、値段よりも安心感を重視する購入層に支えられている。
楽天市場での取り扱い
楽天市場では中古ゲーム専門店が出品しており、価格帯は 2,500円〜3,500円前後で推移している。商品の状態説明が細かく記載されていることが多く、「動作保証あり」「外箱に日焼けあり」といった明記が安心材料となっている。ポイント還元やセールと組み合わせて購入されるケースもあり、他のフリマアプリより若干高めながらも安定した需要がある。
駿河屋での販売状況
中古ゲーム大手の駿河屋でも『邪聖剣ネクロマンサー』は定番タイトルのひとつとして取り扱われている。販売価格は 2,200円〜3,000円前後が多く、在庫状況によっては「売り切れ」になることも珍しくない。駿河屋は買取も行っているため、出入りが多く「あるときに買っておかないと次はいつ入荷するか分からない」という流通の特徴がある。
総合的な傾向
『邪聖剣ネクロマンサー』はPCエンジンの初期を代表するRPGということで、需要は安定している。価格は高騰しているわけではないが、状態の良いものは確実に価値が上がってきており、コレクション目的で確保する人も増えている。未開封や極美品はプレミアが付くケースもある一方、遊ぶだけなら2,000円前後で手に入ることもあり、レトロゲームの中では比較的手を出しやすいタイトルといえる。
こうして中古市場を見渡すと、『邪聖剣ネクロマンサー』は30年以上経った今も一定の流通量があり、安定した人気を誇るタイトルだと分かる。プレイ用としてもコレクション用としても価値を持ち続けているのは、本作が持つ独自の存在感とカルト的な魅力の証明だろう。
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