【中古】刑事J.B.ハロルドの事件簿 ~マンハッタン・レクイエム&キス・オブ・マーダー~
【発売】:リバーヒルソフト
【対応パソコン】:PC8801、PC9801、X68000、Windows95、FM-7、X1、MSX2
【発売日】:1987年
【ジャンル】:アドベンチャーゲーム
■ 概要
作品の立ち位置:シリーズ本編とは少し違う“もうひとつの事件”
『J.B.ハロルドシリーズ キス・オブ・マーダー』は、架空の刑事(あるいは捜査に関わる人物)J.B.ハロルドを軸に、都市の闇と人間関係の綻びを追い詰めていくアドベンチャー作品群の一角にあるタイトルです。1987年にリバーヒルソフトから、PC8801・PC9801・X68000など複数のパソコン向けに展開され、のちにWindows95世代やFM-7、X1、MSX2といった環境へも広がっていった系譜に連なります。本作が面白いのは、単に「シリーズ第◯作」という直線的な続編ではなく、“同じ街・同じ空気を借りながら、別の事件を成立させる”発想で組み立てられている点です。言い換えるなら、舞台装置は見覚えがあるのに、そこで起きる出来事はまったく別の角度から刺してくる——このねじれが『キス・オブ・マーダー』の第一印象を決めます。
舞台とトーン:都会の光の裏側を、冷えた視線で覗き込む
物語の舞台は、繁華さと孤独が同居する大都市の一角。華やかな通りから一歩外れるだけで、保険、宝石、金、名義、偽造、借金、愛憎といった“人が人生を賭ける理由”が、急に生々しい手触りを帯びます。本作が描こうとするのは、派手な銃撃戦やアクションの痛快さではなく、事件の周囲にいる人々が抱えてきた秘密や、語られない動機の層です。台詞や証言は、いかにもそれらしく整った説明ではなく、感情のほころびや言い淀みが混ざることで真実味が出る。プレイヤーはその“歪み”を拾い、つなぎ合わせ、最後に一本の線にする役を担います。
事件の核:失われた物と失われた言葉が、捜査を歪める
事件は一人の女性の死から始まり、同時に重要な物証(高価な宝石やそれにまつわる価値)が消えている、という形で“動機の方向”をわざと曇らせます。金銭目的に見えるが、それだけでは説明が足りない。愛憎に見えるが、そこにも嘘が混ざる。さらに、被害者が生前に握っていた情報や、周囲が隠してきた関係性が、捜査の視界を何度も反転させます。結果として本作は、「犯人当て」だけをゴールにせず、“なぜその答えに飛びつくと危険なのか”という心理の罠まで設計した構造になっています。
ゲームの基本構造:コマンド型ADVの“捜査の手触り”を濃くする設計
当時のパソコン向けアドベンチャーらしく、操作の中心には「聞く」「調べる」「移動する」といったコマンド群があります。ここで重要なのは、正しいコマンドを選ぶこと自体が目的ではなく、“どの情報が不足しているのかを自分で自覚する”ことが進行条件になっている点です。たとえば同じ人物に話を聞くにしても、先に別の場所で証拠を見つけているかどうかで会話の温度が変わる。あるいは、地図上の同じ店に行っても、目的の人物が居るタイミングは限られている。こうした作りは、プレイヤーのメモ取りや状況整理を自然に促し、捜査している実感を強めます。
“推理”が作る緊張感:状況に合う答えを選ぶ難しさ
本作を語るうえで外せないのが、捜査の節目で“現時点の結論”を問われるような局面があることです。ここが上手いのは、最終的な真相に一直線で近づく推理だけが正解とは限らないところ。捜査とは、常に不完全な情報の上に仮説を立て、外れるリスクを抱えながらも前へ進める営みです。本作はその現実をゲーム上の壁として再現し、「いまの材料で最も筋が通るのは誰か」「どの線が一番太いか」をプレイヤーに突きつけます。正解は“真犯人”ではなく、“その時点の捜査状況にふさわしい指名”であることがあり、ここで読み違えると足踏みする。この意地悪さは好みが分かれますが、同時に、ただの物語鑑賞では終わらない緊迫感を生みます。
人物の扱い:同じ顔が別の役を演じる“スターシステム”的な面白さ
『キス・オブ・マーダー』には、シリーズ内の別作品で見覚えのある雰囲気や人物像が、役割を変えて現れるような“入れ替え”の妙があります。プレイヤーが過去作の記憶を持っていればいるほど、「この人物はこういう立場だったはず」という先入観が立ち上がり、その先入観が捜査を惑わせもする。逆に、初見のプレイヤーには純粋に登場人物の言動だけが材料となり、先入観なしの推理が成立する。つまり本作は、シリーズ経験者と未経験者で“違う種類の揺さぶり”を仕込んでいるタイトルだと言えます。
演出とビジュアル:実写に寄せた空気感が、物語の重さを支える
シリーズ特有のリアリティ志向のビジュアルは、派手なアニメ表現ではなく、陰影や表情の硬さで緊張を作ります。夜の街の冷たい光、室内の閉塞感、人物の目線の逃げ方——そうした細部が、「この事件はゲームの中の出来事」という距離を縮め、プレイヤーの没入を助けます。BGMや効果音も、勝利のファンファーレで気分を上げるタイプではなく、沈黙や間が怖くなる方向に働き、読後感を重くする。だからこそ、真相に辿り着いた時の“解けた”という感覚が、達成感というより安堵に近い色を帯びます。
当時の遊び方:短時間で終わらない“捜査の積み重ね”が主役
本作は、一気に派手な山場へ運ぶより、細い糸を集めて太い縄にする過程を楽しむタイプです。行き先を変え、聞き方を変え、証拠の読み方を変え、同じ場所に戻って違いを確認する。その繰り返しが“手間”にも“捜査”にもなります。特に、紙のメモや簡易な相関図を作りながら進めると、作品の面白さが一段上がります。誰が誰に何を隠しているのか、いつ発言が食い違ったのか、どの物証がどの人物の嘘を縛るのか。こうした整理作業そのものがゲームプレイになっているのが、本作の古典的で強い魅力です。
後年の展開:移植・復刻で触れやすくなった“番外の名刺”
シリーズの中でも独特の位置付けを持つ本作は、のちに複数の環境へ移植・復刻され、別タイトルとのセット扱いで再提示された時期もあります。さらに、レトロPC作品の復刻配信や家庭用向けの再展開によって、当時の空気を比較的そのままに追体験できる入口が増えていきました。こうした広がりは、本作が単なる“追加的な一本”ではなく、シリーズの世界観を別の角度から照らす鏡として機能している証でもあります。
まとめ:『キス・オブ・マーダー』は“知っている街で、知らない罪を追う”作品
『J.B.ハロルドシリーズ キス・オブ・マーダー』の核は、都市を借り、人物を借り、空気を借りながら、それでも「事件の味」を完全に作り替えるところにあります。推理の節目でプレイヤーの理解度を試し、情報整理を強く要求し、感情よりも事実の積み上げで真相へ迫らせる。遊びやすさより捜査の実感を優先した設計は、現代の快適さとは別の方向で“濃さ”を持っています。だからこそ、じっくり腰を据えて向き合った時に、古典ミステリーのような読み応えが返ってくる——そんな作品です。
■■■■ ゲームの魅力とは?
魅力①:事件の“派手さ”より、人間の“弱さ”を覗き込むドラマ性
『キス・オブ・マーダー』が放つ面白さは、まず「事件そのもののショッキングさ」で引っ張るタイプではなく、事件の周囲にいる人間が抱える弱さ、嘘、言い訳、そして小さな自己正当化を丹念に剥がしていくところにあります。いわゆる刑事ドラマのように、犯人が派手に暴れたり、劇的な追跡や銃撃戦で盛り上げたりする方向ではありません。むしろ、日常の中で誰もがやりかねない判断ミス——“隠せば丸く収まると思った”“言わなければ傷つけないと思った”“借りるだけなら戻せると思った”——そうした小さな歪みが、死という取り返しのつかない結果に繋がっていく怖さを描きます。 ここが上手いのは、プレイヤーが「遠い世界の悪人の話」として切り離せないように、登場人物の動機を極端に怪物化しない点です。誰か一人が全ての悪を背負うというより、複数の人間の“ずるさ”と“臆病さ”が絡まり、事件の網目を作っている。そのため、真相に近づくほど「納得」と同時に「後味の苦さ」が増し、クリアした瞬間の感情が爽快感ではなく、重い理解へ傾く。この読後感こそ、本作の魅力の一丁目一番地です。
魅力②:メモと整理が“作業”ではなく“ゲーム性”になる構造
本作は、情報を集めれば集めるほど楽になるゲームではなく、情報が増えるほど“整理しないと危険になる”ゲームです。誰がどこで何を言ったか、同じ人物の発言の矛盾はどこか、時間軸の食い違いは意図的なのか、それとも勘違いなのか。こうした観点を持たないと、証言の海に溺れます。 しかし裏を返せば、この“整理の負荷”がそのまま面白さになっています。紙のメモでも、頭の中の相関図でも、プレイヤーが自分なりの捜査ノートを作っていくほど、ゲームが「単なるコマンド選択」から「自分で事件を解体する遊び」へ変わっていきます。アドベンチャーゲームの快楽が、反射神経ではなく理解と推理に宿るタイプの人にとって、本作はとても相性が良い。しかも、整理が上手くいった瞬間には、突然“会話の一文”が鋭い刃物に変わります。今までただの世間話に見えていた台詞が、矛盾の証拠になって刺さる。その瞬間が、探偵役の快感を生みます。
魅力③:中盤の“推理の関門”が、作品全体の緊張を底上げする
本作がシリーズの中でも語られやすい理由の一つに、「節目で推理を要求してくる」構造があります。多くのコマンドADVは、詰まっても“必要な行動を探す”方向で解決しますが、本作では“必要な理解”を問われる局面が強い。つまり、単に「行ってない場所がある」ではなく、「見た情報をどう読んでいるか」を試される。 この関門の魅力は、正解が“最終的な真犯人”とは限らないところにあります。捜査の現場では、確定的な真相を掴む前に、相手を揺さぶったり、捜査の方向性を定めたりするために仮説を立てます。本作はその現実をゲームの仕組みに落とし込み、「今の材料で最も筋が通る仮説」を提出させます。ここでの緊張感は、RPGのボス戦とは別の種類の“胃が痛い緊張”です。間違えたらゲームが止まるだけではなく、自分が読み違えていたことを突きつけられるのが怖い。だからこそ、当てられた時の達成感が大きい。 この構造は人を選びますが、刺さる人には「推理ゲームをやっている」という芯の強い手応えを残します。
魅力④:シリーズ経験者ほど揺さぶられる“見覚えのあるもの”の罠
『キス・オブ・マーダー』は、シリーズの別作品で見覚えのある舞台や雰囲気を“借りて”別の事件を作るタイプの面白さを持っています。これが何を生むかというと、経験者ほど“思い込み”が強くなる罠です。 たとえば、過去作で信用できた人物が、今作では同じように信用できるとは限らない。逆に、怪しく見える要素が過去作の記憶による偏見の可能性もある。プレイヤーは、作品世界に慣れているからこそ、勝手に補完してしまう。「この街のこの場所はこういう意味があるはず」「この人物はこういう立場のはず」。本作は、その補完を一度踏み台にしてから崩し、プレイヤーを転ばせます。 この揺さぶりは、シリーズを追ってきた人への“意地の悪いご褒美”でもあります。単なる流用ではなく、流用だからこそできる心理トリックを仕掛けている。ここに気づくと、本作は“番外の追加”ではなく、“シリーズへの反射鏡”として輝き始めます。
魅力⑤:ビジュアルと演出が、事件の温度を下げて“リアル”にする
派手な演出で盛り上げるのではなく、あえて温度を下げることでリアルさを出す。これが本作の演出の美点です。人物の表情や部屋の空気、街の夜の冷たさが、過剰にドラマチックではないのに、じわじわと不安を増幅させます。 とくに、捜査が進むにつれて「話しているのに噛み合わない」「説明しているのに何かが抜けている」という違和感が積み上がるのが巧い。BGMが主張しすぎない分、プレイヤーの集中が会話に吸い寄せられ、疑念が自分の中で膨らむ。恐怖の演出が“驚かす”ではなく“気づかせる”方向にあるため、静かなのに疲れる。この疲れが、事件の重さをそのまま体験させます。
魅力⑥:短時間で消費させない“硬派な味”が、今の時代に逆に新しい
現代のゲームは、テンポ良く次の展開を見せ、親切な誘導で詰まりを減らす設計が主流です。一方、本作は「プレイヤーの理解が追いつくまで待たない」。だからこそ、ゆっくり進めた人ほど深く刺さります。 この“硬派さ”は、単に不親切というより、推理という行為を軽く扱わない姿勢に近い。情報の取捨選択、証言の読み替え、先入観との戦い——それらをプレイヤーに委ねることで、ゲームの中心を“プレイヤーの頭の中”に置いています。娯楽としての優しさは少ないかもしれませんが、推理小説を読むように、自分で咀嚼しながら進む遊び方にフィットする。いま遊ぶと逆に新鮮に感じるのは、この手触りが薄れた時代背景もあるでしょう。
まとめ:『キス・オブ・マーダー』の魅力は、“理解したぶんだけ深くなる”こと
本作の面白さは、派手な驚きではなく、積み上げた理解が最後に一つの形になる快感にあります。メモを取って整理した人ほど、台詞の一行に震え、証言の矛盾に気づき、推理の関門を越えた瞬間に「自分の捜査が事件を動かした」と感じる。 つまり『キス・オブ・マーダー』は、プレイヤーに“鑑賞者”ではなく“捜査官”であることを要求する作品です。その要求の厳しさこそが、刺さる人には100点の魅力になります。
■■■■ ゲームの攻略など
攻略の前提:このゲームは“正しい操作”より“正しい整理”で進む
『キス・オブ・マーダー』の攻略で最初に押さえたいのは、いわゆるアクションやRPGのように「強い装備」「レベル上げ」「反射神経」で突破するタイプではない、ということです。ここで求められるのは、捜査官としての作法——情報を拾い、分類し、矛盾を探し、仮説を立て、必要なら捨てる——その繰り返しです。つまり攻略とは、コマンド総当たりで当てる“手癖”ではなく、プレイヤー側の“捜査ノート”を整える作業でもあります。 本作は特に、同じ場所・同じ人物でも「何を知っているか」で反応が変わるため、単発のフラグ管理だけでは詰まりやすいです。逆に言えば、詰まりそうな場面の多くは「行き先が分からない」ではなく、「行き先はあるのに、そこで何を聞くべきかが分からない」「どの情報を軸に質問を組み立てるべきかが曖昧」という形で起きます。ここを意識しておくだけで、攻略のストレスが大幅に減ります。
まず作るべきメモ:3つの表があるだけで詰まりが激減する
本作は、メモを取るかどうかで“別ゲーム”になります。おすすめは紙でもテキストでもいいので、最初に次の3つを作っておくことです。 1つ目は「人物表」。登場人物の名前、立場、被害者との関係、よく出る場所、口調や癖(焦ると話を逸らす、主語を曖昧にするなど)を一行ずつでもいいので書きます。 2つ目は「時系列表」。日付や時刻が明示される情報、誰がどこにいたという証言、移動の可能性などを箇条書きで並べます。矛盾が出たらそのまま赤字のように目立たせる。 3つ目は「物証・キーワード表」。宝石・保険・契約・カード・部屋の鍵・電話番号といった“物”や“名詞”を抜き出し、それがどの証言と結びつくかを紐づけます。 この3点セットがあると、推理の関門で必要になる「現時点で筋の通る仮説」が組み立てやすくなります。ゲームはプレイヤーが情報を忘れることを前提に優しく作られていないので、ここは攻略の必須装備だと思ってください。
詰まりやすい罠①:同じ場所の“再訪”をサボると情報が止まる
コマンドADVに慣れていないと見落としがちなのが、「一度行った場所は役目を終えた」と思い込む罠です。本作では、ある人物に会った後で別の証拠を得ると、同じ人物の発言が増えたり、言い回しが変わったりします。さらに、同じ店・同じ部屋でも、話題が変わると“調べる対象”の意味が変わることがあります。 攻略のコツは、重要な進展(新しい証言・新しい物証・推理の関門を越えた直後など)があったら、次の優先順位で再訪することです。 – 被害者に近い関係者(恋人、友人、雇用主など) – 金や契約に絡む人物(保険、宝石、金銭の出入りがある) – 事件現場に近い人物(近隣、店員、管理人など) この順番で当たると、情報が繋がりやすく、“一歩進んだのに次が見えない”状態を避けられます。
詰まりやすい罠②:会話コマンドは“全部聞く”より“聞き直す”が効く
本作の会話は、質問の順番や前提知識で印象が変わります。全部の話題を一度に聞き尽くすより、「今の状況で聞き直す」ことが重要です。たとえば、最初は曖昧に流された話題でも、物証を掴んでから同じ話題を振ると、相手が焦って余計な一言を足す——こういう変化が出ます。 攻略としては、会話を次の3段階で扱うと整理しやすいです。 – 初回:人物像と基本関係を集める(誰が誰をどう見ているか) – 中盤:矛盾点を掘る(時刻、場所、持ち物、目撃の食い違い) – 終盤:仮説をぶつける(言い逃れを封じるための詰め) 同じ人物でも、目的が変わると聞くべき話題が変わります。ここを意識すると、会話が“消化”ではなく“捜査”になり、攻略が安定します。
詰まりやすい罠③:地図・移動の扱いは「最短」より「線」を意識する
移動は単なるワープではなく、捜査の線を引く行為です。どこからどこへ動いたのか、その移動が可能だったのか、移動にかかる時間はどの程度か。こうした感覚が、証言の矛盾を見抜く武器になります。 攻略の実務としては、地図上で頻繁に出る場所(被害者の関連先、保険や宝石に関係する場所、事件現場周辺など)を“拠点”として扱い、そこを起点に線で移動する意識を持つと良いです。 – 拠点A(事件現場)→拠点B(関係者の溜まり場)→拠点C(契約・金銭の窓口) この線を意識すると、「誰がどのタイミングでどこに居たか」を想像しやすくなり、推理の関門で強くなれます。
難所:推理の関門を突破する“考え方”
本作の最大の壁は、節目で求められる推理です。ここは、いわゆる“真相の犯人当て”ではなく、「現時点で捜査として成立する指名」を求められることがあるため、混乱しやすいです。突破のコツは、次の手順で自分の仮説を作ることです。 1) まず“確定している事実”だけを抜き出す(証言ではなく物証や一致点を優先) 2) 次に“矛盾している点”を列挙する(時刻、場所、持ち物、関係性) 3) その矛盾を説明できる人物を2〜3人に絞る(動機より機会) 4) 最後に「その時点で疑うべき最も太い線」を選ぶ(真犯人かどうかより捜査上の妥当性) 特に重要なのは、動機に飛びつかないことです。ミステリーに慣れている人ほど「動機が濃い=犯人」と考えがちですが、捜査の途中では“機会”と“矛盾の説明力”の方が強い根拠になります。ここを押さえると、関門の突破率が上がります。
楽しみ方としての攻略:一周目は“正解”より“自分の捜査”を残す
本作は、一周目で完璧にスマートに解くより、「どこで迷い、何を根拠に仮説を立て、どの矛盾に気づけなかったか」を記録すると二周目が化けます。攻略情報を見て最短ルートで終えるより、捜査ノートを作り、矛盾の気配を拾い、推理の関門で自分の論理を試すほうが“作品の味”が濃く出ます。 もし詰まったら、総当たりではなく、メモの3表(人物・時系列・物証)に戻り、「矛盾があるのに放置している点」を探してください。だいたいそこが次の行き先を指しています。
総まとめ:攻略の鍵は“フラグ探し”ではなく“矛盾探し”
『キス・オブ・マーダー』の攻略は、行動を当てるゲームではなく、矛盾を当てるゲームです。再訪・聞き直し・線としての移動・関門の考え方——この4点を押さえるだけで、難しさは“理不尽”から“手応え”へ変わります。 そして何より、本作の攻略は、最短で終えるための技術ではなく、“事件を理解するための手順”そのものです。そこに気づいた瞬間、あなたのプレイは攻略ではなく捜査になり、本作が持つ硬派な魅力が一気に立ち上がってきます。
■■■■ 感想や評判
評価の前提:この作品は“便利さ”より“体験の濃さ”で語られやすい
『キス・オブ・マーダー』の評判を整理するとき、まず理解しておきたいのは、評価軸が「遊びやすいか」「テンポが良いか」ではなく、「捜査している実感があるか」「物語の重さに納得できるか」に寄りやすいことです。つまり、現代的な親切設計に慣れているほど、最初は“硬い”“不便”と感じやすい。一方、推理小説的な読み味や、メモを取りながら遊ぶPCアドベンチャーの手触りが好きな人には、「これが欲しかった」と刺さりやすい——そういう二極化が起きやすいタイプです。 この作品が面白いのは、絶賛と不満が、同じ要素から生まれている点です。たとえば「推理の関門」は、好きな人には緊張感と没入を生む仕組みですが、合わない人には“止められる”体験になります。つまり評判は、作品の欠点というより、設計思想の明確さがそのまま評価の割れに繋がっている、と考えると理解しやすいです。
当時のプレイヤー視点:PCミステリーADVの“濃い一本”として語られる
当時のパソコンゲーム文化の文脈で見ると、本作は「ミステリーADVとして濃度が高い」方向で名前が挙がりやすい部類です。雑誌的な紹介や口コミでも、アクション性や派手さより、シナリオの重さ、情報の積み上げ、雰囲気の冷たさといった要素が前面に出やすい。 特に、プレイヤーが“捜査ノート”を作ることを当然の作法として受け入れていた層にとっては、「ちゃんと考えたぶんだけ返ってくる」作品として評価されやすい。逆に、ストーリーだけを追ってテンポよく終わらせたい層には、「考えないと進まないのが面倒」という反応が出やすい。つまり、当時のPCゲームの遊び方そのものが、評価の分岐点になります。
好評①:事件の背景にある人間関係が“薄い嘘”で崩れていくのが良い
肯定的な感想でよく語られるのは、「人間関係の描き方が生々しい」という点です。被害者と周囲の人物の距離感、金銭や価値物が絡むときの目の色の変わり方、善人ぶった言葉の中に混じる自己保身。そうした“薄い嘘”が積み重なり、最後に耐えきれなくなって崩れる瞬間が気持ちいい、と言われやすい。 また、犯人像が漫画的に悪として描かれるのではなく、複数の人物の小さな選択の積み重ねが事件を育てたように感じられる点も、評価されやすいところです。プレイ後に「怖いのは犯人より、事件の周辺にいる人間の弱さだ」と感じるタイプの人には、強く残る作品になります。
好評②:静かなのに緊張が続く“冷えた演出”が、逆に没入を強める
本作の演出は、派手な盛り上げを避け、むしろ空気を冷やすことでリアルさを出します。BGMが過剰に感情を誘導しない、台詞が説明しすぎない、沈黙の間がある。こうした設計が、プレイヤーの頭を“捜査モード”に固定します。 この手の作品は、勢いで読ませるより、疑念を自分の中で膨らませることが面白さになるので、演出が静かなほど効きます。だから、「怖い場面がある」というより「常に疑っている自分が疲れる」という感想が出やすい。そしてその疲れが、作品の価値として受け止められる層がいます。そういう人にとって、『キス・オブ・マーダー』は“上質な疲労”をくれるミステリーです。
好評③:推理の関門が“ゲームらしい壁”として成立している
推理の節目で足を止められる仕組みは、賛否の中心ですが、肯定側の意見では「ここがあるから捜査が締まる」と評価されます。単にコマンドの当てっこで終わらず、状況を理解しないと前へ行けない。つまり、ストーリーを読むだけの作品ではなく、プレイヤー自身の推理が物語を進める、という実感が得られる。 特に、メモを取り、矛盾を拾い、仮説を立てた人ほど、この関門を越えた瞬間に“自分の捜査が通った”感覚が強く出ます。ここが刺さる人は、本作を「シリーズの中でも印象が濃い」と語りやすいです。
賛否①:素材の“見覚え”が、嬉しさにも混乱にもなる
シリーズ経験者にとって、舞台や雰囲気、人物の既視感は“ニヤリ”とできる要素です。しかし同時に、それが混乱の種にもなります。「あの人は本来こういう立場だったはず」という先入観が、今作では当てにならない。場所の意味合いが違う。役割が入れ替わる。 この揺さぶりを面白いと感じるか、「混乱して没入が切れた」と感じるかで評価が割れます。特に、過去作の記憶が強いほど、最初の違和感に引っ張られてしまい、捜査を誤ることもある。ここは“シリーズを遊んだ順番”や“記憶の鮮度”で受け止め方が変わるポイントです。
賛否②:推理の要求が“厳しい”と感じる人もいる
関門の推理は、正解に辿り着くための過程として魅力的ですが、同時に「いじわる」「止められる」と感じる人がいるのも事実です。特に、真相としては外れに見える仮説を、その時点では“捜査として妥当”として選ばされる感覚に納得できない人は、ストレスを抱えやすい。 このタイプの不満は、「推理が難しい」よりも、「ゲームが求める答えの質が特殊」という点にあります。犯人当てを期待していると、ズレが起きやすい。逆に、“捜査の途中経過”を評価されるゲームだと理解できると、ストレスが手応えに変わります。
賛否③:テンポの遅さと作業感は、現代目線だと辛いこともある
移動・聞き込み・再訪・聞き直し——これらが攻略の中心になる以上、テンポは速くありません。特に、会話の変化を拾うために同じ場所へ何度も行く必要があると、作業感が出やすい。 当時はそれが“捜査のリアル”として受け止められた面もありますが、現代の快適さに慣れたプレイヤーには、もどかしさになりやすい。評判が割れるのは、この時代差の影響も大きいです。
総合的な位置づけ:刺さる人には“シリーズの顔”、合わない人には“硬派すぎる一本”
まとめると、『キス・オブ・マーダー』は「誰でも楽しめる万能作」というより、「推理と整理を楽しむ人に深く刺さる特化型」です。重い人間ドラマ、静かな演出、情報整理の負荷、推理の関門。これらが噛み合ったとき、プレイヤーは“事件を解いた”ではなく“事件を理解した”という感覚を持ち帰ります。 一方で、その特化は同時に敷居でもあり、テンポや親切さを求める人には合いません。だからこそ評判は割れやすいのですが、割れるという事実自体が、作品の個性が強い証明でもあります。
■■■■ 良かったところ
良かった①:事件の“輪郭”ではなく“体温”を描く、重い人間ドラマ
本作の良さを語るとき、まず挙がりやすいのが「事件の筋」そのものより、事件が起きるまでに積み重なっていた“人間の温度”です。被害者がどんな立場に置かれていたのか、周囲の人物は何を欲しがり、何を恐れていたのか。誰かが口にする正しそうな言葉の裏に、薄い自己保身が混ざっている。こうした描写が丁寧なので、プレイヤーは単なる犯人当てではなく「この街で、この人間関係なら起こり得る」という納得を持って終盤へ向かいます。 とくに良いのは、登場人物が“極端な悪人”になり切らないことです。嘘をつく人物にも、嘘をつく理由がある。隠す人物にも、隠すだけの脆さがある。正しいことを言う人物でも、どこかで自分を守っている。だからこそ、真相に近づくほど「誰か一人を叩いて終わり」にできない感触が残り、読後感が重く、しかし強く記憶に残ります。ここはシリーズ全体の美学でもありますが、本作は特に“後味の苦み”が上質です。
良かった②:静かな演出が、疑念を自分の中で増殖させる
派手な盛り上げを避け、沈黙と間を武器にする。これが本作の演出の強みです。BGMが強く泣かせたり煽ったりしない分、プレイヤーの意識が台詞と状況に集中し、疑念が自分の頭の中で育ちます。「この発言、なぜ今言った?」「その言い方、主語を抜いたのは何のため?」そういう違和感の芽が、静けさの中でよく見える。 また、夜の街や室内の閉塞感など、空気が冷えている描写が多く、事件の陰湿さが過剰な刺激なしに伝わってくる。結果として、ゲームを終えたあとに残るのは“驚いた記憶”ではなく、“疑っていた時間の濃度”です。これは、ミステリーとして非常に強い長所です。
良かった③:捜査が“作業”ではなく“推理の運動”になる設計
本作は、情報を集めるだけでは意味がなく、それを整理して初めて価値になる。だから、メモを取り、相関図を作り、時系列を並べたときに、ゲームが急に面白くなります。 良かった点としてよく語られるのは、「自分が賢くなったように感じられる瞬間」が何度もあることです。最初は雑談に見えた証言が、別の物証と繋がった瞬間に“刃”になる。矛盾が一つ見つかっただけで、人物の印象が反転する。こうした変化が、プレイヤーの中で起こるのが本作の快楽であり、コマンドを選んでいるだけなのに、頭の中では推理が走っている。 この“推理の運動”が成立している点は、ミステリーゲームとして大きな美点です。
良かった④:推理の関門が、物語に緊張の芯を通している
賛否が分かれる仕組みですが、良かったところとして挙げるなら「推理の関門があることで、捜査が締まる」点です。コマンドADVは、どうしても“次のフラグ探し”になりがちです。しかし本作は、節目で理解を問うことで、プレイヤーに「今、自分は何を掴んでいるのか」を整理させます。 つまり、関門は意地悪なストッパーというより、捜査の点検作業です。ここで自分の仮説が通ったとき、「ストーリーが進んだ」以上に「自分の読みが通用した」手応えが返ってくる。これが好きな人にとって、本作の緊張感は唯一無二になります。
良かった⑤:シリーズ経験者に刺さる“見覚えのあるもの”の再解釈
過去作を知っている人ほど、本作の良さは増します。舞台の雰囲気、人物の既視感、配置の似た空気。それがあるのに、事件の中身は別物。ここに“世界の反射”のような面白さがあります。 プレイヤーは自然と、記憶の補完をしてしまいます。「この場所はこういう意味がある」「この人物はこういう立場だろう」。しかし本作は、その思い込みを揺らし、再解釈させます。これが成功すると、シリーズが一本の線ではなく、複数の角度から同じ都市の闇を描いた“群像”として見えてくる。シリーズの楽しみを広げる役割を果たしている点は、良かったところとして大きいです。
良かった⑥:クリア後に“解けた”より“理解した”が残る
多くの推理ゲームは、犯人を当てた瞬間に爽快感が来ます。ですが本作は、爽快感よりも「そういうことだったのか」という重い納得が来るタイプです。 この感触は、好き嫌いが分かれますが、良かった点として挙げるなら“作品が目指している読後感をブレずに実現している”ことです。事件の構造を理解し、人間関係の歪みを把握し、嘘の積み重ねを見届けた結果、プレイヤーの中に残るのは、勝利よりも理解です。この余韻の強さは、他作品では得にくい価値です。
総まとめ:良かったところは、硬派さが“本物の手応え”に変わる瞬間の連続
『キス・オブ・マーダー』の良さは、派手さではなく、濃さと手応えです。静かな演出が疑念を育て、整理が推理へ変わり、関門が緊張を固定し、シリーズ的な既視感が思い込みを揺らす。 そして最後に残るのは、事件を消費した感覚ではなく、事件を理解してしまった感覚です。これが刺さる人にとって、本作は“良かった”で終わらず、長く思い出す作品になります。
■■■■ 悪かったところ
悪かった①:詰まり方が“次の行動”ではなく“次の理解”なので、理不尽に感じやすい
本作で不満として挙がりやすいのは、詰まったときの感触が「どこに行けばいいか分からない」ではなく、「何が分かっていないのか分からない」になりやすい点です。これはミステリーとしては強みでもありますが、ゲーム体験としてはストレスになり得ます。 特に、推理の関門や情報の繋げ方が求められる局面では、「必要な証拠が足りないから進めない」というより、「今ある材料で、ゲームが想定する筋道を立てられないと止まる」という印象を受けやすい。プレイヤー側としては“真相に近い答え”を出しているつもりでも、その時点での捜査として妥当ではないと弾かれることがあり、ここに納得できないと一気に冷めます。 このタイプの不満は、単純な難易度というより“答えの質”が特殊なことから来ます。推理ゲームに慣れている人ほど、むしろ引っかかりやすいのが厄介です。
悪かった②:再訪・聞き直しが多く、同じ景色を往復する作業感が出やすい
本作の攻略は、再訪と聞き直しが重要です。ですが、この重要さがそのまま“往復の面倒さ”にも繋がります。とくに、ある情報を得た後に、過去に行った場所をいくつも回り直す必要が出ると、推理の楽しさよりも“確認作業”が前に出てしまう。 また、再訪の価値が「会話が一文増える」「言い回しが微妙に変わる」程度だと、それを見つけるまでの手間が大きく感じられます。ゲームのテンポが遅いというより、“進展が見えにくい遅さ”になってしまうことがある。現代の快適さに慣れた人ほど、ここは大きな不満点になりやすいです。
悪かった③:推理の関門が“意地悪”に見える瞬間がある
本作の特徴でもある推理の関門は、ハマる人には最高の緊張感を作りますが、合わない人には“いじわるな壁”に見えます。 とくに不満が出やすいのは、「その時点の捜査として成立する仮説」を求められる局面で、プレイヤーの心理としては“事件の真相”に意識が向いているのに、ゲームは“途中経過の妥当性”を求めてくることです。このズレに気づくまで、何度も試行錯誤する羽目になり、「推理している」という気持ちより「当てさせられている」という気持ちが勝ってしまうことがあります。 さらに、選択肢の文言やニュアンスが微妙だと、「こっちの意味で選んだのに違う判定だった」と感じ、理不尽さが増します。ここは設計上の意図が分かっても、プレイ中は素直にストレスになりやすいポイントです。
悪かった④:シリーズ経験者ほど“既視感”が混乱に繋がる場合がある
見覚えのある舞台や人物の空気が、ファンサービスにも罠にもなる——これは本作の美点である一方、欠点として作用することもあります。 過去作で得た地図の感覚や人物像を前提に動くと、今作ではズレが出る。店の位置関係や役割の違い、人物の立場の入れ替えなどがあると、「自分が覚えていた世界」と「今作が提示する世界」が噛み合わず、捜査の集中が切れることがあります。 特に、シリーズを連続で遊んでいて記憶が鮮明なほど、「本来こうだった」という思い込みが強く働き、混乱が増す。これを面白い揺さぶりと捉えられる人もいますが、純粋に事件へ没入したい人には邪魔に感じられます。
悪かった⑤:情報の扱いが硬派すぎて、感情のカタルシスが薄いと感じることも
本作は、感情の爆発で盛り上げるより、事実の積み上げで真相へ行きます。そのため、エンディングに達しても「スカッとした」「泣けた」というより、「理解してしまった」という冷たい納得が残りやすい。 これは狙い通りの読後感ですが、プレイヤーによっては“報われなさ”に見えることがあります。努力して真相を突き止めたのに、爽快なご褒美が少ない。真相が綺麗に片付かない余白がある。こうした“渋い後味”を魅力と取るか、欠点と取るかで評価は割れます。
悪かった⑥:当時のUI・導線の不親切さが、現代目線ではハードルになりやすい
コマンドADV特有の、何を選べば反応があるのかが分かりにくい場面や、どこまで調べれば十分なのかが曖昧な場面は、現代基準だと不親切に映ります。ヒントが薄い、誘導が少ない、プレイヤーのミスを救ってくれない。 当時のパソコンゲーム文化では“自力で解く”ことが前提だった面もあり、その硬派さが価値でもありました。しかし今遊ぶと、そこで脱落する人が出るのは自然です。復刻や移植で遊びやすくなっていても、根本の設計思想は“自分で考えて進める”ですから、合わない人にはとことん合いません。
総まとめ:悪かったところは“尖り”の裏返し——好き嫌いを分ける設計の強さ
『キス・オブ・マーダー』の不満点は、多くが「硬派さ」「捜査の実感」を優先した結果として出てきます。推理の関門、再訪の多さ、導線の薄さ、爽快感の少なさ。 ただしこれらは、作品の方向性がブレていない証拠でもあります。だからこそ、合う人には100点、合わない人には苦行になりやすい。悪かったところを理解したうえで、プレイヤーが“捜査ノートを作って遊ぶ作品”だと割り切れるかどうか——そこが評価を大きく分ける部分です。
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■ 好きなキャラクター
前提:この作品は“キャラ萌え”より“人物観察”で刺してくる
『キス・オブ・マーダー』は、派手な必殺技や分かりやすいヒーロー性でキャラクターを好きにさせる作品ではありません。むしろ、会話の端々、言い淀み、態度の変化、矛盾の匂い——そういった“人間の癖”を観察させ、プレイヤー側の解釈で人物像が立ち上がってくるタイプです。だから「このキャラが好き!」という感情も、見た目や名台詞より、「この人の弱さがリアル」「この人の仕事の仕方が信頼できる」といった、現実的な好意に寄りがちです。 ここでは、特定の固有名詞に依存しすぎず、本作の雰囲気から“好きになりやすい人物像”を、どんな理由で刺さるのかという観点で掘り下げます(本作のキャラの良さは、まさにそこにあります)。
好き①:J.B.ハロルド——冷静さの裏に、諦めと誠実さが同居する捜査官像
本作で最も“好きになりやすい”のは、やはりJ.B.ハロルドという存在です。彼の魅力は、熱血でも天才でもないところにあります。捜査において感情を優先せず、相手の言葉を額面通りに受け取らず、しかし必要以上に人を踏みにじらない。 このバランスが良いのは、彼が「人は嘘をつく」という前提を持ちながら、それでも人間を嫌い切っていないように見えるからです。事件を追うほど、人の弱さが見えてきます。それでも、ハロルドは冷静に手続きを進める。プレイヤーが感情で揺れる局面でも、彼の職業的な視線がブレない。ここに安心感があり、結果として“相棒として信頼できる主人公”として好かれます。 また、硬派なミステリーでは、主人公が冷たくなりすぎて読者(プレイヤー)が置いていかれることがありますが、ハロルドは必要な場面では人の痛みを理解している匂いを残します。その“匂い”の薄さが逆に上品で、好きになる理由になります。
好き②:協力者(内部の捜査側の人物)——正義感より“現場の勘”で動く人が魅力的
シリーズの雰囲気として、主人公の周辺には、署内や関係機関に“現場の匂い”を持った協力者が配置されがちです。こういう人物が好き、という声は根強いです。理由は単純で、彼らはドラマのために動くのではなく、“現場の理屈”で動くから。 たとえば、証言をそのまま信用しない。相手の態度の変化を見て、言葉の裏を読む。必要なら雑に見える方法で揺さぶる。こういう動きが、プレイヤーに「この世界は仕事で回っている」というリアリティを与えます。 主人公が冷静な分、協力者が少しだけ人間臭かったり、皮肉を言ったり、疲れていたりする。その“生活感”が、事件の空気を濃くし、キャラクターとして好かれるポイントになります。
好き③:保険・金銭に絡む“プロの人物”——善悪ではなく利害で立っているのが面白い
本作の事件には、価値物や契約、金の匂いが絡むため、保険や宝石、取引に関わる“プロの人物”が存在感を持ちやすいです。こういう人物が好き、というタイプのプレイヤーもいます。 なぜ好かれるかというと、彼らは「正しいことを言う」より「損をしないことを言う」ので、会話が常に信用できない一方で、筋が通っています。つまり、嘘をつくことがあっても、嘘の方向が利害で読める。ここに“分かりやすさ”があり、推理の手がかりにもなります。 さらに、こうした人物は情緒で動かない分、突然感情が漏れたときにインパクトが出ます。普段は淡々としているのに、ある話題で一瞬だけ苛立つ、ある単語で声が揺れる。そういう瞬間がキャラクターの厚みになり、好きになるきっかけになります。
好き④:被害者の周辺人物——“守りたいもの”が歪んでしまった人間の悲しさ
ミステリーのキャラクターとして印象に残るのは、犯人や探偵だけではありません。被害者の周囲にいて、事件の余波を受ける人物たち——彼らが抱える“守りたいもの”が、結果として嘘や隠し事に繋がったとき、プレイヤーは複雑な感情を抱きます。 こういう人物が好き、というより、「嫌いになれない」と感じる人は多いはずです。正しいことをしていないのに、気持ちは分かる。逃げたことが罪に見えるのに、逃げた理由は現実的。 この“嫌いになれない層”がしっかり描かれていることは、本作のキャラクター面の強みで、プレイヤーの記憶に残りやすい。好きというより、忘れられない存在になります。
好き⑤:犯人像——怪物ではなく“普通の人間”として成立しているところ
犯人を「好きなキャラクター」に入れるのは人を選びますが、本作の犯人像が評価されやすいのは、極端に漫画的な悪ではなく、“普通の人間の延長”として成立している点です。 人を殺すほどの決断に至るまでには、段階があります。最初は小さな嘘、次は小さな隠蔽、その次は引き返せない選択。そういう階段を上がってしまった人間として描かれると、プレイヤーは嫌悪と同時に理解もしてしまう。理解してしまうことが怖い。 この怖さを成立させた犯人像は、キャラクターとして強く、印象に残ります。「好き」という言葉が合わなくても、作品を語るときに避けて通れない存在として、記憶に刻まれます。
まとめ:好きなキャラクターは、“人間として信じられるか”で決まる
『キス・オブ・マーダー』で好かれる人物は、派手で分かりやすい魅力より、「この人はこう動く」という筋が通っていることが多いです。主人公の冷静さ、協力者の現場感、利害で動くプロの読みやすさ、弱さを抱えた周辺人物の悲しさ、そして怪物化しない犯人像。 どれも、プレイヤーが捜査の中で観察し、納得し、時に嫌いになれないまま理解してしまう。そうした“人物観察の面白さ”が、この作品のキャラクター面の魅力であり、好きになる理由になります。
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●対応パソコンによる違いなど
前提:同じ事件でも“触り心地”が変わるのがパソコン版の面白さ
『キス・オブ・マーダー』のようなコマンド型ADVは、ストーリーや事件の骨格が同じでも、対応機種が変わるだけで「遊び心地」「見え方」「テンポ」「没入感」がかなり変化します。とくに80年代後半〜90年代のマルチ機種展開では、CPU性能や解像度、色数、音源、ストレージ(フロッピー枚数や読み込み速度)、フォント表現の差が、そのまま作品の印象に直結しがちです。ここでは“アーケード移植”のような別物比較ではなく、同一タイトルを複数環境で遊んだときに起きやすい差分を、実感ベースで整理します。
PC-8801版:シリーズの空気を“素朴な手触り”で味わう基準点
PC-8801は、当時の国産PCゲーム文化を象徴する環境のひとつで、コマンドADVとの相性も良い土台があります。この系統の作品をPC-88で遊ぶ魅力は、画面構成がシンプルで、プレイヤーの意識が「文章」「証言」「矛盾」に集まりやすい点です。 ビジュアル表現は、後発機種と比べれば華美ではないことが多いですが、その分、頭の中で補完する余白が残ります。ミステリーは余白があるほど怖い、という感覚がある人にとっては、PC-88の“少し足りない”表現がむしろ味になります。 一方で、読み込みや画面切り替え、音の厚みは控えめになりやすく、テンポ面では不利になることがあります。ただし本作はもともとテンポ重視ではなく、考える時間が多いので、待ち時間が“捜査の間”として馴染む人もいます。
PC-9801版:文章量とUIの“実務感”が増し、捜査がしやすい傾向
PC-98はビジネス用途でも強かった環境で、文字表示や画面の安定感が“仕事の道具”っぽい空気を持っています。ミステリーADVにおいて、この実務感は相性が良いです。 見やすい文字、比較的安定した画面構成、作品によっては情報表示の整理がしやすいレイアウトになり、捜査ノートを取りながら進めるときの負担が軽く感じられることがあります。 逆に言えば、雰囲気としての“ロマン”より、捜査の手続きを淡々とこなす色が強くなりがちです。これを「没入しやすい」と感じる人もいれば、「味気ない」と感じる人もいます。ただ、本作のように情報量が価値になる作品では、PC-98的な読みやすさは正義になりやすいです。
X68000版:ビジュアルと音の“密度”で、都市の冷たさが増幅される
X68000は、当時の国産PCとしてはグラフィックとサウンド表現に強みがあり、アドベンチャーでも“空気の密度”が上がりやすい環境です。本作のように、夜の街の冷たさや、室内の閉塞感、人物の表情の硬さが重要な作品では、表現密度の上昇がそのまま没入感の底上げに繋がります。 また、画面の見やすさや演出の滑らかさが増すことで、「事件を追っている感覚」が強まる傾向もあります。静かな作品ほど、わずかな演出差が効くので、X68の表現力が“静けさの怖さ”を支える役になりやすい。 ただし、豪華になった分だけ“想像の余白”が減ると感じる人もいます。PC-88のように、プレイヤーの脳内補完が強く働くタイプの怖さとは別方向の、視覚と音で押す怖さになります。
MSX2版:家庭寄りの環境で遊べる反面、操作感や表示が変わりやすい
MSX2は、パソコンというより“家庭のホビー機”として触れていた人も多い環境です。そのため、ミステリーADVをリビング寄りの感覚で遊べるのが魅力になります。 一方で、移植の際に画面レイアウトが変わったり、色の使い方や表示領域の都合で、情報の見せ方が再設計されがちです。ミステリーは情報の整理が命なので、ここが好みに合うかどうかで評価が変わります。 また、キー入力やコマンド選択の手触りも、機種ごとの文化があるため、「PC版の仕事っぽさ」より「家庭用っぽさ」が前に出ることがあります。逆にそれが、作品の硬派さを少し柔らげ、入りやすくなる場合もあります。
FM-7版:独自文化の空気で、“同じ事件が別の質感”になる面白さ
FM-7系は、同じ国産PCでも独特の文化圏があり、同一タイトルの移植でも“見た目と触り心地”が変わることが多いです。本作のように、情報の積み上げで進むADVでは、文字の見え方、画面の間、色の雰囲気が変わるだけでも印象が別物になります。 この差を「違和感」と見るか、「別解釈の面白さ」と見るかがポイントです。シリーズを追っている人ほど、FM-7版の“同じ事件なのに違う空気”を楽しめることがあります。
X1版:表示・入力の作法が違い、“手で解いている感”が強く出ることがある
X1系は、作品によっては文字や画面の癖が強く出ることがあり、その癖がミステリー体験を左右します。たとえば、文章が読みやすいか、コマンドの選択が直感的か、切り替えのテンポがどうか。 本作は“読み”が中心なので、読みやすさの差がそのままプレイ疲労の差になります。逆に、癖があるほど「昔のPCで遊んでいる」という手触りが強まり、レトロ体験としての魅力が上がる場合もあります。
Windows95版:環境の安定と快適さで、“捜査の集中”がしやすい方向へ
Windows95世代に来ると、操作の統一感や動作の安定、ストレージの余裕などにより、“待ち”や“手間”が軽くなりやすいです。本作の不満点になりがちな再訪・聞き直しも、環境が快適になるほど心理的負担が減ります。 また、画面の解像度や表示の安定によって、文章を読み続ける作業が楽になり、結果として「推理に集中できる」方向に寄ります。作品が本来持っている硬派さは残しつつ、遊びのストレスだけを薄める形になるので、初めて触れる人には入り口として適した感覚になることが多いです。
まとめ:機種差は“性能差”ではなく、“没入の方向”の差として出る
同じ『キス・オブ・マーダー』でも、 – PC-88:素朴さと余白で、想像の怖さが立つ – PC-98:実務感と読みやすさで、捜査が整理しやすい – X68000:表現密度で、都市の冷たさが強く刺さる – MSX2:家庭寄りの触りで、硬派さの入口が広がる – FM-7/X1:独自の癖で、“別の質感”として味わえる – Windows95:快適さで、推理への集中が増す ——といった具合に、“どれが上”ではなく“どの没入が好きか”で選ぶのが正解です。 本作は「事件を理解する」体験が核なので、自分が最も集中できる環境が、最終的には最高の一台になります。
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■ 当時の人気・評判・宣伝など
前提:この作品は“派手な話題”より“じわ売れの信頼”で広がりやすいタイプ
『キス・オブ・マーダー』の当時の広がり方を想像すると、アイドル的に大ヒットしてテレビCMで席巻するタイプというより、パソコン雑誌・ショップの棚・ユーザー同士の口コミで“刺さる層に深く届く”方向だったと捉えるのが自然です。理由は単純で、作品の魅力が「瞬間的な派手さ」ではなく、「遊んだ人が“良い疲れ”を持ち帰る濃さ」にあるからです。 1980年代後半の国産PCゲーム市場は、機種ごとの文化が強く、ユーザーが雑誌や店頭情報を頼りに作品を選ぶ時代でした。だから宣伝も、“何万人が遊んでいる”より“どういうゲーム体験が得られるか”を丁寧に語る方が効きます。本作はまさに、その文脈で評価が積み上がっていくタイプのタイトルです。
当時の人気の形①:推理ADV好きの間で「次に遊ぶべき一本」として回る
当時のパソコンゲームの人気は、必ずしも販売本数だけで語られません。むしろ、濃いジャンルほど「同じ趣味の人が推す」ことで価値が増幅されます。 本作は、ミステリーと捜査の実感を重視し、メモを取りながら進める硬派さを持つため、推理ADVを好む層の“信用”を得やすい。つまり、万人受けの派手さはなくても、「あのタイプが好きならこれは外さない」という推薦が成立しやすいタイトルです。 ショップでの会話、雑誌の読者投稿欄、ユーザーグループ、パソコン通信的な交流(当時の情報交換の場)など、同好の士のネットワークを通じて「これは濃い」「これはちゃんと推理させる」という評判が育っていく——そういう人気の仕方が想像できます。
当時の人気の形②:シリーズの存在が“名刺”になり、新作ではなくても注目される
シリーズものの強みは、個々の作品が“単独の新商品”ではなく、“世界観と品質のブランド”として語られる点にあります。『J.B.ハロルドシリーズ』は、リアル寄りの絵作り、重めの人間ドラマ、都会の冷たい空気、情報整理を前提にした捜査体験といった色があり、好みの合う人にとっては「その名が付いていれば見に行く」指標になります。 そのため本作も、単発作品としての派手な宣伝より、「シリーズとしての信頼」の延長線で注目されやすい。店頭でも、雑誌でも、「このシリーズの新しい切り口」「もうひとつの事件」といった言い方で“シリーズファンが反応する紹介”になりやすいです。
当時の宣伝の軸①:リアルなビジュアルと“重厚な捜査ドラマ”を前面に出す
当時のPCゲーム広告や紹介記事で効果的だったのは、スクリーンショットで雰囲気を伝え、短いコピーで“どんな体験か”を示すことです。本作の宣伝で映えるのは、派手な戦闘画面ではなく、人物の表情、夜の街、室内の陰影、事件の匂いが漂う場面です。 コピーとしては、 – 「都会に潜む嘘を暴け」 – 「証言の矛盾を追え」 – 「真相は、あなたの推理の先にある」 といった、推理・捜査・リアルを連想させる方向が刺さります。実際に当時の宣伝がどうだったかの細部を断言はしませんが、作品の性格上、こうした“硬派な言葉”が最も適切だったはずです。
当時の宣伝の軸②:価格・構成面の“手に取りやすさ”が訴求になりやすい
この時代のPCゲームは、タイトルによって価格差が大きく、またフロッピー枚数や必要環境の条件も購入判断に直結しました。もし本作が、シリーズ本編の資産を活かした構成(舞台や雰囲気の共有、別事件の提供)で“手に取りやすい形”になっているなら、それは店頭で強い訴求になります。 つまり宣伝は「豪華さ」だけでなく、「この内容でこの価格」「この一本でこの濃さ」というコストパフォーマンスの言い方が効く。ユーザーは雑誌を読み、店頭で箱を手に取り、必要ディスクや対応機種を確認して買う時代なので、“買った後に後悔しない材料”が宣伝になるわけです。
当時の評判の広がり方:雑誌レビュー+読者の声+店頭のおすすめが三位一体
80年代後半のPCゲームは、いまのように動画や配信でゲーム内容が瞬時に共有されるわけではありません。だからこそ、評判の核になるのは次の3つです。 – 雑誌の紹介記事・短評(雰囲気、システム、難易度の触れ方) – 読者の投稿や口コミ(詰まった点、怖かった点、印象に残った場面) – 店頭でのおすすめ(同ジャンル好きに刺さる“棚の文脈”) 本作は、どれか一つの爆発ではなく、この3つがじわじわ噛み合って「推理ADV好きの定番枠」に入りやすい性格です。特に、クリアした人が語りたくなる作品は強い。派手なネタバレではなく、「どこが難しかった」「どう整理した」「あの違和感が気持ち良かった」という語りが生まれやすいからです。
当時の人気度の捉え方:売上だけでなく“濃いファン層の支持”が指標になりやすい
本作のような硬派ミステリーは、全員が買う大ヒットにはなりにくい反面、“買った人がシリーズを追う”確率が高いジャンルです。つまり、一本ごとの爆発ではなく、シリーズ全体の寿命を伸ばす燃料になります。 当時の評判としては、 – 「真面目に推理させる」 – 「雰囲気が冷たくて良い」 – 「メモ必須で骨太」 – 「好きな人にはたまらない」 といった言葉で語られやすく、逆に、 – 「不親切」 – 「テンポが遅い」 – 「推理の要求が厳しい」 といった声も同時に出やすい。こうした賛否が並ぶこと自体が、当時の“尖った支持”を示すサインになります。
宣伝の場面を想像した“当時の空気”:箱と紙が語る時代の説得力
当時は、パッケージの裏面、雑誌のモノクロページ、ショップのポップ、短い紹介文が、ゲームの中身を想像させる主要な入口でした。本作は、そこに強いタイプです。 なぜなら、事件のフック(被害者の死、消えた価値物、絡む保険や利害)を短い文章で提示しやすく、さらに“推理するゲームです”という方向性も一行で伝えられるからです。スクリーンショットも、人物と会話、夜の街、事件の空気——そうした絵が並ぶだけで、好みの人は反応します。 そして、買った後に待っているのは、派手な演出ではなく、静かな捜査の濃さ。このギャップがないので、「宣伝で想像した通りの硬派さだった」と納得されやすい。ここもまた、当時の評判が安定して積み上がる理由になります。
総まとめ:当時の『キス・オブ・マーダー』は“尖った推薦”で生きるタイトル
『キス・オブ・マーダー』の当時の人気は、瞬間最大風速より、推理ADV好きの間での信頼と推薦で形作られていくタイプです。雑誌・店頭・口コミが少しずつ背中を押し、シリーズの名刺として棚に残り、遊んだ人が“語りたくなる濃さ”で次の人へ渡す。 その結果として、万人受けはしないのに、好きな人の記憶からは消えない——そんな“当時らしい強さ”を持った作品として語られていきます。
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